エバネッセント場は、ある空間方向に電磁界の振幅が指数関数的に減衰する場です。遮断以下の金属導波管では軸方向、光導波路のクラッドでは主に横方向の減衰を考えます。両者を同じ距離スケールや「どの方向にもエネルギーを運ばない」という説明でまとめてはいけません。
1.指数減衰と振幅・二乗量の違い
一方向の減衰成分をE(x) = E0e−αxとすると、αの単位はm−1です。振幅の1/e距離はδ = 1/α、振幅二乗の1/e距離は1/(2α)です。「侵入深さ」がどちらを指すかを明示します。
| 距離 | 振幅比 | 振幅二乗比 |
|---|---|---|
| δ | 約0.368 | 約0.135 |
| 2δ | 約0.135 | 約0.0183 |
| 3δ | 約0.0498 | 約0.00248 |
この二乗比を、あらゆる方向へ流れる伝送電力と同一視しないでください。電力の向きと大きさは電界・磁界の関係から求めるポインティングベクトルで評価します。
2.遮断以下の金属導波管
空気充填の理想矩形導波管では、軸方向伝搬定数はβ² = k0² − kc²を満たします。周波数が遮断より低いと通常の実数βによる進行波にならず、減衰定数はα = √(kc² − k0²)となります。
WR-90のTE10について、a = 22.86 mm、f = 5 GHzならkc = π/a、k0 = 2πf/cです。α ≈ 88.9 m−1、振幅1/e距離は約11.25 mmとなります。
この減衰成分の振幅比をdBで表すと約0.772 dB/mmです。μm当たりではありません。また、接続面を含む有限長部品のS21をこの指数だけで決められるわけではありません。
3.光導波路では横に減衰しても軸方向に進む
誘電体導波路では、モードが軸方向に伝搬しながら、コア外側のクラッドで横方向に減衰できます。単純な平面境界モデルではα⊥ = √[β² − (ncladk0)²]のように評価します。
したがって「クラッドにエバネッセント場があるから光は進まない」とは言えません。クラッドへしみ出す場も含めて伝搬モードを構成します。侵入深さは屈折率差、モードと波長に依存し、1550 nmで一律775 nmなどと固定できません。
4.結合とエネルギーの流れ
理想的な全反射境界の単独のエバネッセント場は、減衰方向へ平均正味電力を流しません。一方、近くに別の導波路や吸収体を置くと境界条件が変わり、エネルギー移動が起こり得ます。
近接する光導波路間の結合、リング共振器への入出力、有限長の遮断区間を介する結合はこの点を考慮します。「全く伝送しない」という一言では説明できません。結合量は間隔だけでなく位相整合、相互作用長とモード形状にも依存します。
5.用途と測定の注意
光学では近接場顕微鏡、導波路結合器、表面近傍のセンシングなどに利用します。マイクロ波では不連続部の場や結合構造、遮断を利用する共振器・フィルターを評価するときに重要です。
プローブを近づけると元の場を乱す場合があります。解析ではモード、座標方向、材料損失、境界条件と測定面を記録します。近接する数値点の比だけから、構造全体の効率や遮蔽性能を断定しないでください。
よくある混同
- 金属内部の表皮深さと、空洞や誘電体境界のエバネッセント減衰は別のモデル。
- 振幅の1/eと振幅二乗の1/eは距離が異なる。
- 横方向に減衰する場と軸方向に遮断されたモードは異なる。
- 光学ナノメートルの例をマイクロ波導波管へそのまま移さない。
光学での方向と結合の説明はRP Photonics、金属導波管の遮断と波長はMicrowaves101を参照してください。