アレイアンテナの校正は、チャネルごとの振幅・位相や測定系の誤差を評価し、目的の基準に合わせる作業です。測定器の校正、アレイ内部の補正、完成システムの検証を分けると原因を追跡しやすくなります。すべての装置に共通する位相許容値や500時間ごとの校正周期はありません。
1.基準面と測定系を確立する
周波数範囲、偏波、入出力レベル、基準チャネルと温度を決めます。VNAを使う場合はケーブル・治具を含む校正面と必要なディエンベディングを定義します。測定器だけを校正しても、基準面より先の未評価の治具は消えません。
信号源、受信器と制御の同期を確保し、雑音床から十分離れた線形範囲で測ります。全アレイに10 dBmのCWを入力すれば適切という共通条件はありません。受信・送信経路の許容レベルを先に確認してください。
2.チャネルの複素応答を比較する
同じ基準に対する各チャネルの応答hi(f)を測り、振幅と位相の差を記録します。共通の目標応答hrefにそろえる考え方は、補正係数ci = href/hiで表せます。
ただし応答が弱い点をそのまま大きく逆補正すると、雑音や動作範囲の問題が生じます。係数はハードウェアの利得・位相範囲と分解能を考慮して適用します。1周波数の補正を広帯域へ無条件に流用しません。
3.位相差と遅延差を分ける
遅延差Δτは周波数に応じた位相差を生み、その大きさはΔφ = 2πfΔτです。10 GHzで1 nsなら10周期分に相当します。ある周波数で360°の整数倍として見えなくても、帯域内で位相勾配が残り得ます。
位相のアンラップと周波数依存性を確認し、位相オフセットだけで十分か、遅延補償が必要かを判断します。位相器の刻み、校正の残差と温度ドリフトは別々の項目です。
4.放射パターンと偏波を検証する
遠方界測定では、電気的に大きい開口の目安としてR ≥ 2D²/λが使われます。D = 0.60 m、12 GHzなら約28.8 mです。「波長の10倍」で必ず遠方界になるとは言えません。送受両アンテナ、反射と要求不確かさを検討します。
近傍界測定を使う場合は、プローブ補正、走査領域とサンプリング、位置精度、変換処理を管理します。角度刻みを一律1°に固定すると狭いビームや深いヌルを見落とす場合があります。
共偏波と交差偏波は座標・基準偏波を定めて測ります。単にダイポールを回すだけで、すべての円偏波や複雑なアレイを同じ精度で検証できるわけではありません。
5.独立した条件と環境変化で再確認する
係数を算出した点だけで合格を判定せず、別の周波数、走査方向と温度条件を含めます。再起動、再接続や時間経過に対する再現性も用途に応じて確認します。
レーダーシステムで基準反射体を用いる試験は、アンテナ以外の送受信処理や伝搬を含む評価です。内部チャネル校正と同じ試験ではありません。反射体の特性、配置、背景の扱いと不確かさを別途定義します。
残すべき校正記録
| 記録 | 内容 |
|---|---|
| 構成 | シリアル、ファームウェア、ケーブル、治具と基準面。 |
| 条件 | 周波数、レベル、温度、偏波と走査位置。 |
| 補正 | 係数、適用範囲、量子化と残差。 |
| 検証 | 独立測定、再現性と不確かさ。 |
周期は観測されたドリフト、環境と製造者の手順から設定します。自由空間リンクの関係とアレイ合成の基礎を確認しつつ、測定装置とアレイの専用手順を用いて実施してください。